有識者の声
特集│「働き方」改革
人が活きる、企業が活きる~“人”を起点とした経営のヒント~
株式会社ミライフの代表取締役として働き方改革事業、戦略人事コンサルティング事業などを展開する佐藤雄佑さんにお話を聞きます。
リクルートホールディングス体制構築時(2012年)には人事GMとして、リクルートの分社・統合のプロジェクトを推進するなど、人事の現場に携わってきた佐藤さんは、著書『いい人材が集まる、性格のいい会社』で「変化の時代だからこそ人が大事」と言います。
人を活かすことで企業が活きる。そのための「働き方」改革だとすれば、今、「人事」をどう捉えればよいのでしょうか?
自らも高い目標設定を掲げチームに激をとばす「激ボス」から、職場で働く部下・スタッフのワーク・ライフ・バランスを考えながら組織の業績結果も残す「イクボス」へとマネジメントスタイルを変化させたというご自身の体験を交えながらお話を聞きました。
“一律ではない”というキーワードで、人事に対する考え方も個別に対応していく時代になってきています
――佐藤さんが人材ビジネスなど、人に深く関わる仕事をやるようになったきっかけはなんでしょうか?
「もともと大学でマーケティングを勉強していたので、そういう仕事がしたくて、ベルシステム24という会社に新卒で入社して、販促やCRM(顧客管理)をやっていたんです。そのうちに、仕事が上手くいくかどうかは結局、最後は“人”なんだと感じました。そこから人材ビジネスをやりたいと思ってリクルートに未経験で飛び込んで、それ以降は、人材ビジネスばかりやってきました」
――著書のタイトルは『いい人材が集まる、性格のいい会社』ですが、人材ビジネスをやっていくなかで気づかれた「いい人材/ダメな人材」の違いは何でしょうか。
「まずいい人材かどうかは、主観によります。例えば私なんかは、ズバッと意見を言ってしまうタイプですけど、それを嫌がる企業もありますよね。僕がリクルートに向いていたのは、“会議に出てしゃべらないんだったら来るな”という社風があったからで、会社が大事にしていることによって求められる人材は変わります。また、同じ会社でも社員が3人のときに入った人と、会社が成長して100人規模になった段階では求められるものは違います。だから、本では“いい人材”という書き方をしていますけど、“いい人材/ダメな人材”があるわけじゃなくて、人材の定義は会社ごと、会社のポジションごとで変わるというのが私の考えなんです。一律に“いい人材”というものがあるわけじゃない。“一律ではない”というキーワードで、人事に対する考え方も個別に対応していく時代になってきています。昔の上司なら、社長から会社の方針を伝えられたら部下にそれを伝えて、実行させるだけでよかった。だけど今は時間内だけ働きたいワーキングマザーもいれば、独身で時間は関係なくバリバリ働きたい人もいて、異なるタイプの部下を上手く活かしてパフォーマンスを出さないといけない。以前は朝から晩まで働ける男性正社員が頑張って、それに付いていけない人は離脱するしかなかったんですが、それではダメな時代になった――これが働き方改革なんだと思います」
やり方が間違っていたことを痛感して残ったメンバーで業務を開始した日に、みんなの前で謝りました
――ご自身も「激ボス」から「イクボス」に変わっていったそうですね。
「もともと私の好きな言葉は“圧倒的”で、業績は1位じゃないと意味がないって思っていたんです。当時、リクルートでは社内業績や成果のランキングが部署ごとに1位から100位まで出たんですけど、それで1位になったこともありますし、それが評価されてマネージメントや支社長経験をさせてもらいました。だから部下に対しても“2位はダメなんだ、達成したかどうかじゃなくて、ハイ達成なんだよ。100%を追ってるからダメなんだ。200%を追え!”ってパワハラはなはだしい上司だったんですよ(笑)。ただ、それが2008年のリーマンショック以降、通用しなくなった。当時、私は千葉支社長だったんですけど、千葉は東京より中規模の地元会社やベンチャーが多く、リーマンショックで会社の業績が悪いなかで新しい人を取ることが難しいどころか、社員を減らしたいという相談をされるほどになってしまっていて、人材紹介の仕事がなくなったんです。そのときに支社長だった私は “1やってダメなら10やれ。それでもダメなら100やれ”と、部下を頑張らせた。みんな死ぬほど働いてくれたんですけど、結果が全然出ず、挙げ句の果てに会社全体の業績も悪くなって、当時30人程いた千葉支社もメンバーを半分にしなきゃいけなくなったんです。その時に、自分のやり方が間違っていたことを痛感した私は、残ったメンバーで業務を開始したその日に、みんなの前で謝りました。そこからマネージメントの仕方を変えて“時間無制限でどこまでいけるか”だった仕事のルールを、“限られた時間という制約のなかでどこまで生産性をあげられるか”に変えたんです。そしたら、驚くほど結果が出た。全国でみれば、小さい支社だった千葉支社でどんどん成果が出るから、社長が飛んできて“何をやったんだ?”って聞かれました。“今までのような仕事のやり方では不景気の時代には勝てないから、社員に対して本質的な教育をやるべきだ”と人の使い方について話したんです。すると、人事のマネージャーに即異動になりました。言わなきゃよかったと思いましたけどね(笑)。その頃からリクルートは上場に向かっていくことになり、会社の分社・統合という大きな組織変革をしていったタイミングだったので、すぐに会社全体の人事制度の設計と調整、組織を作り、誰をどのポジションに配置するかを決める業務に携わりました」
――その際に大切にしていたことは?
「リクルートでは、半期に一度、上司との評価面談があるんですけど、ただそこで評価をするのではなく、将来その社員がどうなりたいか、短期的にはどうなっていきたいかを話すことでポジションの希望ややりたい事を宣言させています。本人の希望とまったく異なるポジションを任されることもありますけど、その際にも本人のキャリアプランを考えて、“やったことがなくて難しそうでも、任せてみる”ことのほうが多かったです」
――その経験が、「会社は未経験者を採用するべき」という現在の佐藤さんの考えにも繋がるのでしょうか?
「そうですね。自分が未経験者を採ってきたり、自分自身も未経験の仕事をやってきて思うのは、むしろそのほうが、物事を変えられるんです。私は人事として会社の統合を手掛けましたけど、これが経験者だったら、すべてをきれいにやろうとしていたと思うんです。でも私は、営業や現場の役員に直接、どんどん話を聞きに行ってみんなを巻き込んで、業務を遂行していきました。それができたのは未経験者の強みだったと思っています。あとは人事制度を決めて組織を変えていく際にも、人事マンがそれをビジネスライクにやるよりも、現場あがりの自分には現場の気持ちがわかるので、上手くできたのかなと思います。前例を知らない分、固定概念がないですし、吸収力もありますから。もちろん経験者だからこそスペシャリティが生きる世界もありますが、未経験者だけど優秀な人材はいるはずなので、そこを受け入れていくと、ワンランク上の採用ができる可能性があると思います」
――未経験者にも門戸を広げることで人材獲得の選択肢は増えますね。
「世の中が変化していくなかで、会社も変わっていかなければならないときには、それまでの採用に対する考え方とは異なる基準で人材を獲得すれば、いい風を呼び込む可能性にもなると思うんです。そういう人が組織を明るくしてくれたりするし、会社の刺激にもなる。そこから新しいビジネスが生まれたということもあるんです。だから私は未経験者が大好きですし、リクルートにも、元国会議員秘書や元新幹線の運転手や元アナウンサーなんかもいましたし、運転手がやたらとキャリアカウンセリングが上手かったりもしましたらかね(笑)」
――本書では、いい人材に企業の魅力を伝える「採用ブランディング」も大切だと説いていますが、どんな魅力を打ち出す企業が増えてますか?
「昔は残業がなくてお給料が高いのがいい会社の条件でしたが、今は“社会に対してどんな貢献をしているのか?”というビジョンに共感する応募者が多いので、会社としてもビジョンを上手く打ち出していく必要があると思います。小さい会社でも“自分たちのビジネスは社会に対してどんな貢献をして、誰かを幸せにしている”と言い方を変えただけで応募者が増えたりします。会社の規模に関わらず、そこを大事にしている会社には人が集まっていますね」
現場の責任者であるリーダーが強くなることが、多くの社員をハッピーにするまず第一番
――そもそも性格のいい会社とは、どんな会社なんでしょう?
「“働きがい”と“多様な働き方”――これを実現できるのが性格のいい会社だと考えています。中小企業は従業員の“働きがい”を極めていくべきで、その際に大切になってくるのが、先ほど言った会社ビジョンに加えて、“成長できる環境と仲間”なんです」
――著書にもあった“半径5メートル以内の人間関係”ということですか?
「半径5メートルとは会社の規模に関わらず、上司とその仲間5~10人ぐらいの範囲のことですね。その場所の居心地が良かったら、毎日会社に来るのが楽しいですよね。社長が立派でどんなに尊敬していても、目の前の上司が苦手だったら、会社に来るのは苦痛になりますよね。“イクボス”の話に繋がるんですけど、現場の責任者であるリーダーが強くなることが、多くの社員をハッピーにするまず第一番だと思います。上司が個々の状況を理解して、キャリアや育児などのプライベートを応援してくれたら“この上司のために頑張りたい”って部下は思うでしょうし、そうやって相互のコミュニケーションがあって、いい組織はできていくんだと思います」
――育児と言えば、ご自身もお子さんが0歳のときに育休を取られたと。
「社内にほぼ前例がないなかで約半年取りました。仕事は大好きなので後悔しないと思うのですが、ここで家族と向き合わなかったら後悔すると思ったのがきっかけです。仕事で成功しても、将来家に居場所がないとか、子どもから嫌われる人生になったら嫌だと思ったので“今しかない!”と思って育休を取りました」
――父としてもビジネスマンとしても育休を取ってよかったですか?
「120%よかったですね。当時は“贅沢だ”って言われたんですが、育休を取ってわかったのは、これは本当に贅沢なことだということで(笑)。50代、60代になってから育児がしたいと思っても、もう子どもは成長していてできないので、だから小さい時期に一緒にいられたのはよかったですね。うちは共働きで子どもが今4歳なんですけど、育休を取ったことで今も両方、同じレベルで子どもの世話ができますし、週に1、2回は子どものお迎えを担当しています。昨日は私がお迎えをして夕ご飯を作って子どもと食べて、お風呂に入って寝かしつけが終わった頃に奥さんが帰ってきました。家がアウェーじゃないのがいいですね(笑)。あとパパの必殺技として、休日に子どもを連れておもいっきり公園で遊ぶっていうのもよいんです。そしたら奥さんがフリーになって自由時間が作れますから」――そうやって育児に専念する時期を作ったことで、仕事に持って帰れたことはありますか? 「まず明確に女性マネージメントが変わりましたし、“個々のやり方でいい”って言い切れるようになったことで、昔よりみんながついてきてくれるようになりました」
残業を減らすには、マインド部分よりルールを変えたほうが早いと思います
――育児中の方にとってはワーク・ライフ・バランスは、大切な働き続けるための要素ですが、ご自身の経験から、脱長時間労働に有効だと思う方法はありますか?
「これからはやった分だけ残業代を支払うのではなく、“成果で払い、労働時間が短いほど時給が上がる”という考え方にシフトしていくべきだと思います。そして、残業を減らすためには、マインド部分よりまずルールを変えたほうが早いと思います。リクルートでは“タイムマネージメント”という言い方で、労働時間を削減して生産性を上げるプロジェクトをやってきました。そのときに一番効いたのが (江戸時代にあった)“五人組”のような制度でした。リクルートはグループでいい仕事をしたら表彰されるので、それでモチベーションを得る人もいるんですが、せっかくいい仕事をしてもグループ内で1人でも規程時間を越えて働いた人がいればそのグループは表彰されないというルールを作ったんです。そうすると自分だけじゃなく、チーム全体が表彰されないわけですから、社内全体に限られた時間で結果を出すということが浸透していきました」
――組織単位の改革が有効ということでしょうか?
「組織はやっぱり上から変えていかなければいけないので、人を起点にした会社を目指すなら、スタートは絶対に経営者のコミットです。ただ、経営者は合理性や利益、成長や成果で会社を見るんですよね。だから人事はただ“残業を減らしましょう”と言うだけではなく、働きやすい職場にしたら、いい人材が取れて短い時間でパフォーマンスも出せて、結果、業績もよくなるというロジック&ストーリー力を持って経営者に説くことが必要ですね。短期の成果だけ求めていたら働き方改革なんてできないんです。先見の明をもって性格のいい会社にしていくことで、自立したいい人材が取れて、そういう人が短い時間で結果を出して、会社が伸びるんだというストーリーを話して、理解してもらうことが大事です。人事が管理をするだけならアウトソーシングでもできますので、ちゃんと意識を持って経営者や事業戦略に合わせて組織をいい性格に変えていける人事が増えたらいいですね。そして大事なのは“ボスの覚悟”なんです。覚悟を持って部下を信頼して任せて、最後はきちんと責任を取ることができる上司がいれば、組織は俄然変わります。そして半径5メートルが変われば、強くて楽しい組織になっていくと思ってます」
著者紹介
佐藤雄佑
- Yusuke Sato
- 株式会社ミライフ 代表取締役
- 大学卒業後、ベルシステム24に入社、マーケティングに携わり、その後、リクルートエイブリック(現在のリクルートキャリア)に転職。法人営業、支社長、人事GM、エグゼクティブコンサルタントなどを歴任。2016年、株式会社ミライフ設立。働き方変革事業、戦略人事コンサルティング事業などを展開している。事業構想大学院大学 プロジェクトディレクター、米国CCE,Inc認定GCDF-JAPANキャリアカウンセラー、NPO法人ファザーリングジャパン会員。著書『いい人材が集まる、性格のいい会社』(株式会社クロスメディア・パブリッシング)が発売中。
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