有識者の声
第3回 企業のメンタルヘルス対策について
ルール作り①
前回の解説で示したとおり、メンタルヘルス対策の全体像は、大きく分けて、ルール作りと従業員への施策の2つから成り立っており、どちらか一方だけを実施したとしても効果はない。また着手する順番が大切であり、必ずルール作りから行うことを忘れてはならない。理由は、従業員に対して研修その他の意識付けを行ったとしても、そこに会社で決めたルールが含まれていなければ、実際の場面で、どう行動するかを教育できないからである。
策定するルールは、①産業医パッケージ ②健康診断ルール、③過重労働者対応ルール、④休職するときのルール、⑤復職するときのルールの5つである。正式な規則、規程にするか、運用マニュアルのような形にするのかは、各社の決定による。
<①産業医パッケージ>
「産業医パッケージ」とは聞きなれない言葉かもしれないが、これは産業医、衛生委員会、衛生管理者の3点セットを指して私がコンサルティングの現場で使っている。本稿では産業医との付き合いかたを重点的に解説する。
産業医契約をしている場合、その契約書を今一度点検してみてほしい。委託内容に少なくとも5項目以上のことがらが入っているだろうか。産業医が協力的でない、産業医がメンタルヘルス対策に弱いので困る、という相談をよく受けるが、ほとんどの場合、企業側の体制が整っていないことによるものである。また、産業医の本来的な役割を理解し、正しい知識を持ったうえで選任し、活動してもらうようにしたい。産業医の主たる業務は「就労判定」である。高血圧の従業員をこのまま働かせてよいかどうか、うつ病が回復した従業員が、元の職場で働けるかどうか、などに関して意見を述べるのが産業医の職務である。産業医は、決してカウンセリング業務や治療行為のために企業にいるのではない。まずそこをはっきり認識して、産業医を有効活用したい。
メンタル不調者をいきなり産業医の元へ連れて行き、助言を求める企業もあるが、それでは産業医を困らせるだけである。まず、企業側で不調者発見時から休職、復職までの流れをルール化し、その中での産業医の役割を明確化した上で依頼すべきである。例えば、不調者の様子を主治医から情報収集する場合も、会社が用意した質問用紙を産業医に使ってもらい、主治医に情報提供を求める等の工夫があれば、産業医としても負担が少ない。いきなり「主治医に電話してほしい」と言われても、引き受けてもらえない可能性が高い。また、復職の判断も、すべて産業医任せではなく、企業側の基準や受け入れ態勢を事前に産業医に提示し、助言をもらうようにしたいものである。
著者紹介
根岸勢津子
- Setsuko Negishi
- 株式会社プラネット代表取締役
- 企業防衛の視点に立ったメンタルヘルス対策の専門家。社内規程づくりから、教育研修にわたり幅広い領域のコンサルティングを展開。クライアント企業は、IT業、介護福祉業、物流業、小売業、外食チェーンなど、上場企業70社を含む100社を超える。
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