有識者の声
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第6回 企業のメンタルヘルス対策について
従業員への意識づけとセルフケア

 最終回の本稿では、メンタルヘルス対策の全体像の右側=従業員に対する予防策について解説する。

<従業員への意識づけとセルフケア>

 健康は、他人が代わって維持できるものではなく、ひとりひとりの心がけの問題である。従って、企業側は、従業員の健康維持、向上をサポートするべく、正しい知識の普及などを行っていく。たとえば、研修の実施、ポスターの掲示、小冊子の配布、社内報での呼びかけなどがこれにあたる。予算とタイミングを考えて実施していくとよい。また、従業員側には「自己保健義務」があることも周知する必要がある。心身を健康に保ち、労働契約どおり労務提供するのは働く側の務めだ、ということである。労使が協力し、ひとりひとりの健康を保持するプロモーション活動が大切である。
 企業側が提供できるものとして、オフィスや製造現場などに心地よい音楽を流したり、簡単な体操やアロマ(香りによるケア)を取り入れたりするのもオススメである。特に音楽は、さまざまな実験からビジネスパーソンの心に良い影響を及ぼし、生産性を向上させることが分かってきている。集中力、リラックスなど、場面に応じた音楽を利用して、心の健康維持に役立てるのもよいだろう。
 また、従業員ひとりひとりが、自己のストレス度合いに気づき、適切な行動をとることができるようにするのも大切である。気軽にパソコンやスマホ上でストレスチェックができ、同時にメンタルヘルスの知識を学習できる仕組み等があれば、とても有効である。
 意識づけとしては、役員、管理職、一般従業員などの階層別に習得すべき内容がある。役員には経営課題やCSRとしての労務管理を考えてもらい、管理職には現場の責任者として、不調者対応方法やルールを理解させる。そして一般従業員には自己保健義務を中心に学んでもらう。役員および上級管理職(部長以上)には、外部講師が適当であろう。課長以下には社内講師、そして一般従業員には小冊子の配布やe-ラーニングでもよい。もちろん、予算と時間に余裕があれば、演習なども含めた充分な教育・啓発活動をどの階層に対しても行うのが理想である。

<相談窓口の設置>

 変調・不調を感じたり、健康に関して不明な点があったりする従業員が、気軽に利用できる相談窓口の設置が必要である。これは、上記の「意識づけ」をはじめると同時に設置するのが大切である。なぜならば、早期発見・早期相談が大切である、という意識づけを行っているにもかかわらず、その相談先が整備されていないと、不調の際の初期対応がうまくいかず、重症化を招く可能性があるからだ。相談窓口としては、会社の保健室(健康管理室)であったり、専門業者が運営するものであったりさまざまであるが、家族にも窓口を解放することが望ましい。それは、働く人の不調に最初に気づくのは、家族である場合が多いからである。また、管理職が部下の変調に気づいた場合などにも積極的に相談窓口を利用するよう、呼びかけておくことが大切である。
 いずれにせよ、大切なのは導入後の社内への告知、利用促進を怠らないことである。何のための窓口で、どういったことを相談できるのか、また相談を受ける担当者はどういう人で、プライバシーはどのように守られるのか、など充分に説明できるようにしておきたい。具体的方法としては、ポスター掲示、名刺大のカード作成、リーフレット配布などが挙げられる。

<職場環境の整備>

 意識づけを行い、相談窓口を設置しても、肝心の職場環境が乱れていては予防にならない。メンタルヘルスに悪影響を及ぼす代表的な要因としては、過重労働とハラスメントが挙げられる。この2つは、労災認定の重要なポイントでもあることを、読者の皆さまもお気づきのことと思う。まず、過重労働そのものを削減するもの大切であるが、過重労働した者に対するケアを法令通り、もしくは法令を上回るレベルで実施できるよう努力すべきである。
 ハラスメント対策はマネジメントの問題でもあるが、基本の「型」を整えることが先決である。対策の順序は、1.ルール作り 2.相談受付体制と事案解決フローの明確化 3.周知啓発活動 である。1では、社内における禁止事項や解決ルートをしっかり定めて明文化すること。2では相談窓口の受付から事実確認、そして解決までのフローチャートを作成。そして1,2の両方を全従業員に周知し、同時にハラスメントの基礎知識も与えておく。ここまでしておけば、万が一のハラスメント事案による紛争時も、会社の安全配慮義務を果たしていたということができ、企業防衛を意識した労務管理が実現可能となる。

 6回の連載を終えるにあたって、購読して下さった皆様にお礼を申し上げるとともに、全ての企業がリスクマネジメント思考を持って従業員の健康管理を実施されることを希望し、ご挨拶としたい。

著者紹介

根岸勢津子

根岸勢津子

  • Setsuko Negishi
  • 株式会社プラネット代表取締役
  • 企業防衛の視点に立ったメンタルヘルス対策の専門家。社内規程づくりから、教育研修にわたり幅広い領域のコンサルティングを展開。クライアント企業は、IT業、介護福祉業、物流業、小売業、外食チェーンなど、上場企業70社を含む100社を超える。


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2017/10/12