
有識者の声
第2回 企業のメンタルヘルス対策について
全体像を知る
◎メンタルヘルスケアの全体像を知る
すべての業務に共通して言えることであるが、枝葉のことばかりに気を取られ、仕事の全体像が見えていないようでは、うまくいかない。ことに新しい業務であるメンタルヘルス対策においては「木を見て森を見ず」という状態になっている企業が、少なからず見受けられる。取り組む前に、ぜひ知っておいてほしいのがメンタルヘルス対策の全体像である。(図版)
まず、土台となるものはCSRである。従業員の心身の健康管理を行うことは、公器としての責務であるという視点に立つ。そしてその上に乗るのが、コンプライアンス、労務リスク管理、生産性の向上である。
コンプライアンスとしては、労働安全衛生法のみならず、基本的人権(民法)や安全配慮義務(労働契約法)にも配慮したい。労務リスク管理とは、労災はもとより、紛争、訴訟、損害賠償などを限りなくゼロに近づける努力であるとも言える。そして、生産性の向上とは「企業に健康な人が多くなければ稼げない」という至極単純な理論である。
◎法に準拠した社内ルールの策定
ここまでが大義名分にあたる部分であるが、その上には、メンタルヘルス対策の実務が図解されている。まず、図の左側をご覧いただきたい。ここには、企業に必要ないくつかのルールが記してある。不調者が出るたびにバタバタとなるのは、あらかじめ決められたルールがないからである。対応に戸惑い後手に回ると不調者は不満を募らせ会社を恨むなど最悪の事態に進行してしまう。不調者を発見したら、すぐに用意されたルートに乗ってもらえば、お互い紛争を起こす暇もない。不調者も企業側もストレスを感じないルートをいかに作るか、これが考えどころである。
ルールは5種類。産業医パッケージ、健診事後措置、過重労働者対応、休職規程、復職プログラムである。それぞれを使い勝手よく、だれが見てもわかりやすいマニュアルにまとめておくのが、ルート作りに他ならない。
◎従業員に対する予防策
図の右側は、健康な従業員に対して行うべきことが図解されている。健康管理やメンタルケアの取り組みは、全社で共通の意識・知識を持つことから始まる。そのためには、教育研修やストレスチェックの企画立案及び実行、社内報による健康ニュースの配布など、従業員を飽きさせない、多面的なアプローチが必要である。
意識・知識が浸透してくると、不調を感じた時の相談窓口が必要になる。内部にカウンセラーを置くのか、外部のコールセンターに任せるのか、事情に合わせて検討が必要である。特に、2015年12月より義務化されたストレスチェックではリスクの高い従業員が、スムーズに専門家に相談できるよう厚労省も推奨している。毎日出社しているものの、あと少し負荷がかかれば発病しかねない、「予備軍」の発見と手当こそ、企業におけるメンタルヘルス対策のコア業務である。
そして、過重労働の抑制やハラスメント防止などを実施して職場環境を整備していく。図の右側に配置されたこれらの施策は、PDCAを回し、少しずつグレードアップして、メンタルヘルス対策のレベルを向上させていくことが望ましい。
次回は、具体的なルールの内容(全体像の左側)について触れていく。
著者紹介
根岸勢津子
- Setsuko Negishi
- 株式会社プラネット代表取締役
- 企業防衛の視点に立ったメンタルヘルス対策の専門家。社内規程づくりから、教育研修にわたり幅広い領域のコンサルティングを展開。クライアント企業は、IT業、介護福祉業、物流業、小売業、外食チェーンなど、上場企業70社を含む100社を超える。
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