有識者の声
第4回 企業のメンタルヘルス対策について
ルール作り②
<②健康診断ルール>
定期健康診断に関しては、100%受診は当然のこととして、その事後措置が問題である。健康診断を行った後の事業主の義務として、有所見者に関して医師の意見を聞き、産業医が所見のレベルによっては、労働場所の変更や、業務の負荷の低減などを行うこと、とある。(労働安全衛生法第66条4~5)
皆さんの会社では、健診後の事後措置を法律通り行っているであろうか。判例によれば、健康診断によって高血圧が判明している社員に過重労働をさせた結果、亡くなってしまった事案で、企業側に3000万円以上の賠償命令が下っている。
健康診断の結果票にある「要再検査」、「要精密検査」という文字ばかりに目が行っていないだろうか。健康診断を行う機関では、あくまでも数値を出すまでが仕事である。その数値を見て、適切な就労判定を下すのが、産業医の仕事であることを企業は理解しなくてはならない。産業医は担当の事業場を熟知しているという前提であるから、健診を行う機関の医師と同一人物というのはそもそも矛盾している。
<③過重労働者対応ルール>
多くの企業では、人件費削減をめざし残業減少の傾向にあるが、繁忙期や業務の集中する事業場では、ある程度の時間外労働は避けられないであろう。医療の現場では、月に45時間を超える時間外労働では、脳疾患・心臓疾患・うつ病などの危険性が指摘されている。法律では、月に100時間を超える時間外労働をした者で、自ら申し出た労働者は、医師と面接させること、とあるが、これに対し、「誰も申し出る者がいないから、医師との面接は不必要」と決めつけるのは誤りである。
まずは、すべての労働者に、医師と面接できる権利があることを周知しているかどうか。さらに、実際に医師面接を希望されたら、すぐに手配できる体制があるかどうか、この2点をクリアできていてこそ、過重労働者対応ができている、と言えるのである。この法律には「50名以上」などの人数の下限は無いので注意が必要である。一人でも労働者がいれば対象となる。100時間超えの過重労働者は、強制的に医師面接させている企業も増えてきたようだが、遠く離れた小規模拠点で働く人にも、もれなくそのルールが適用できる体制が完備されているかどうか、また、直行直帰の営業職や裁量労働制で働く人、残業代の付かない管理職など、労働時間の把握が難しい人々への対処はどうするか、など課題は少なくない。
また、嘱託産業医に毎月訪問してもらう事業場では、過重労働者が多いと医師に延長料金を支払うことになり、経費の観点から厳しいケースもある。その場合は、問診票を利用するとよい。80時間オーバーの労働者のみ医師面接の対象とし、40時間~80時間までの労働者には問診票を提出させ、その結果を医師に点検してもらうようにすれば万全である。加えてTV電話会議システムの利用なども、一定の条件を満たせば認められるようになったので、こちらも検討してみてはいかがだろうか。
著者紹介
根岸勢津子
- Setsuko Negishi
- 株式会社プラネット代表取締役
- 企業防衛の視点に立ったメンタルヘルス対策の専門家。社内規程づくりから、教育研修にわたり幅広い領域のコンサルティングを展開。クライアント企業は、IT業、介護福祉業、物流業、小売業、外食チェーンなど、上場企業70社を含む100社を超える。
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