有識者の声
「ストレスチェック義務化の具体的な対応方法」後編
前回、企業がストレスチェックを実施するにあたってのさまざまな課題を見てきたが、今回はその解決策を考えてみたいと思う。
まず、従業員の不安や疑問を取り払ってから実施することである。それには、企業からの働きかけとして、セルフケアの知識やストレスチェックの効果などを丁寧に説明したのちに、受検してもらうことが大切である。メンタルヘルス研修のための講師を呼び、座学で学ばせる方法もあるが、手間も費用も掛かる。最近ではインターネット経由でe-ラーニングを利用できるシステムがあり、スマホやパソコンからアクセスができ、利便性も高いため、多くの人に学んでもらうことができる。ストレスチェックの事前準備として、すべての従業員に心の健康やストレスチェックの意義を理解してもらうことに役立つだろう。
また、改正された労働安全衛生法では、情報の取り扱いについて厳しく定められているため、セキュリティの観点からも、安全が保障されたシステムを利用すべきである。例えば、用紙を配布して記入後に回収、というシステムでは、情報管理に不安が残るほか、結果の通達などに時間がかかりデメリットが大きい。
さらに、e-ラーニングで学ぶとともにストレスチェックも受検できるツールでは、受検したその直後に、本人は結果を閲覧することができる。セルフケアのためには、このようなスピード感も大事で、受検してしばらく経った後に助言されても、次の行動にはつながらないことが多い。ツールのマイページなどでは、本人のストレス度合いに応じたコンテンツが用意されているので、その後の働き方や暮らし方、考え方などに、タイムリーに活かすことができ、無理のないセルフケアにつなげるられる。
本人へのフィードバックの次に企業が取り組まなければならないのは、職場ごとの状況を知る事である。多数の受検者がいる場合、集計作業に手間がかかるが、オンラインのシステムで行うストレスチェックであれば、瞬時に部署ごとの集計を閲覧することができ、人事側は、各職場の責任者と結果を共有して改善策を話し合う等、有効活用することができる。また、すべての管理職を集めて社内のストレス度合いを見ながら話し合いなど、職場環境改善への活用も期待できる。
他の課題として、高ストレス者の抽出と医師への面談等の勧奨があるが、システムを使えば、いたって事務的に抽出作業を行うため、実施者にとっても高ストレス者にとっても心理的負担が少ない。また、高ストレス者の一覧表なども瞬時に作成されるため、産業医等、医療職との連携もスムーズである。高ストレス者の中から医師面接を希望した者には、就労環境や健康診断の結果、労働時間などを加味して適切な指導を実施することができる。
ストレスチェックは、個別の結果が企業側に報告されるものではないため、受検者本人が手を挙げない限り、医師との面接は実現しない。厚労省も予測しているように、すべての高ストレス者、不調者が自ら手を挙げるとは考えづらい。そこで、企業としては、誰でも気軽に利用できる外部の相談窓口などを、ストレスチェック実施に合わせて用意しておくことも大切なのではないかと思う。その点から見ても、オンラインシステムのストレスチェックであれば、画面にその旨を掲載することも可能となり、効果的である。
多様な人たちが共に働き、喜び、そして、企業という場で利益を上げていくには、「安心して働ける」職場環境を持つことが、企業には求められるようになった。安心して働けるのは、「健康だからこそ」であるのだ。
著者紹介
根岸勢津子
- Setsuko Negishi
- 株式会社プラネット代表取締役
- 企業防衛の視点に立ったメンタルヘルス対策の専門家。社内規程づくりから、教育研修にわたり幅広い領域のコンサルティングを展開。クライアント企業は、IT業、介護福祉業、物流業、小売業、外食チェーンなど、上場企業70社を含む100社を超える。
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