有識者の声
特集│人が活きる 企業が活きる
月刊総務 編集長 豊田健一インタビュー
「ストレスチェックテストの実施は、総務がどうあるべきかを見直すいいきっかけになるかもしれません。」
総務部として、今回の労働安全衛生法とどう向き合うべきか創刊50年を迎える日本唯一の総務向け専門誌『 月刊総務』編集長の豊田氏にお話を聞きました。
意義や活用方法を社員目線で伝える
12月から施行される「ストレスチェックテスト」ですが、実施すること自体は、多くの企業の場合、人事部が担当することと思います。
では、今回の件について総務部は何もする必要はないかと言うと、決してそうではありません。ストレスチェックテストを行うという社内告知、そして実施後、テストの結果を受けて、何か改善すべき点があった際の対応という部分においては、総務部の働きがとても重要になってきます。 社内への告知に際して注意したいのは、ストレスチェックテストの実施を、どの目線で伝えるかということ。例えば「法律で決まったことなので実施し ます」では、テストを受ける側も“やらされる感”を感じてしまいます。それでなくても、ストレスチェックテストは通常の業務にプラスαとして追加 されるもののため、大半の人が負担に感じるのが実状だと思います。
さらに、初めて行うものですから、受検すること自体はもちろん、自分の結果がどう扱われるのかを、不安に思う人も多いはずです。その不安を取り除いてあげるためにも、ストレスチェックテストの意義や活用の指針を、きちんと社員目線で伝えるように心がけていただきたいです。
総務部にしかできないこと
テストが実施された後には、当然結果が出ます。実は総務部にとっては実施後に担う業務のほうが、実施前の業務に比べてはるかに大きいことが予想されます。また、今回のテストによってメンタルに対する社員の意識が高まることも考えられるので、ストレスチェックテストは、現状を把握し、問題点をどう改善していくかにつなげるためのもの。社員が働きやすい、ストレスを感じにくいオフィス環境をいかに整えていくかにつながっていくものだと思うので、そこはむしろ、総務部にしかできないことなんですね。
メンタルヘルス対策という側面も持つオフィスの環境づくりには、“対個人”“対組織”“対企業”という3つの切り口で考えられることがあります。施策として考えられるのは、それぞれ次の通りです。
【対個人】
●整理整頓された働く場の整備
●ファイリング、ペーパーレスの実施
●苦労克服ストーリーの提示
【対組織】
●社内コミュニケーションメディアの
活用
●社内コミュニケーションスペースの
設置
●社内イベントの企画運営
【対企業】
●オフィスの場所の選定
●サテライトオフィス、在宅勤務
●社内食堂、リフレッシュコーナー、カフェコーナーの設置
例えば、整理整頓が行われていない職場では、ファイル一つ見つけるのも大変ですよね。それがもし、上司から突然に言われてやらなければならないことであったら、それ自体をストレスに感じる場合もあると思います。そうでなくても、雑然としたオフィスでは集中できず、生産性が落ちる可能性もあります。オフィスに観葉植物を置いたり音楽を流すといった工夫をするだけで、ストレスが軽減することも考えられます。
また、チーム/組織としては、例えばコピーやファックス機、カフェスペースを一カ所にまとめることで、普段関わりのない人たちとのコミュニケーションが生まれ、そこから新たなアイデアが誕生することもあるはずです。
こういったことは、実施すれば必ずそのようになる、というわけではないので、ストレスチェックテストの実施前に手をつけるのは難しいかもしれません。
よく“守りの総務”“攻めの総務”と言ったりしますが、何か問題が起きてから対処するのが前者、問題の発生を想定して、あらかじめ用意しておくのが後者。今回のストレスチェックテスト実施に関しては、特に攻めの姿勢が必要だと思います。今後起こりうる事態を、最良から最悪まで、どれだけイメージできるかがポイントですね。そして、その対策あるいは改善は社員のために行うものだというのをきちんと理解してもらえるよう、丁寧に伝えていくことが大切です。
総務の発信には全社への波及効果が
今回のストレスチェックテストの実施は、総務がどうあるべきかを見直すいいきっかけになるかもしれません。
自分たち総務はどうあるべきかを改めて考えてみるのもいいのではないかと思います。総務として何をすべきか、膨大な業務の中で何を基準に優先順位を決めるか、今一度部内で確認してみてはどうでしょうか。会社の業績に貢献しつつ、なおかつ社員のためにもなるという、総務としての“軸”を決めること。さらに、その基準を社内の人たちに伝えることで、他部署の方ともより建設的なやりとりができるようになると思います。
総務が発信することには、全社に波及効果があります。大変な面も多くあると思いますが、裏を返せば総務部の業務は、“会社を変えることができる”ものでもあるのです。総務部発信の施策で社員一人一人の生産性が上がり、会社の業績がアップする――そういった可能性を、総務担当者は持っていると言えると思います。特に、このストレスチェックテストを発端にしたオフィス環境の改善やメンタルヘルス対策においては、総務部が担う期待は大きい。まずは総務の担当の方々自身が、そのことに気付いてほしいですね。
そして……繰り返しになりますが、やはり、“早めに手をつけること”が大切だと思います。
きちんとした答えを持ち、対応の準備を
事後、誰かに追い立てられながら策を練るよりも、事前に通常業務も含めてコントロールしながら進めたほうが、気も楽ですよね(笑)。それに、自分から“こうしよう、ああしよう”と行動したほうが、作業の大変さは同じでも、“大変さの感じ方”が違うはずです。何事も“自分事”にしてしまったほうがやりがいもあるし、楽しめると思います。まずは、社員に実施する前に自分たちで受検し、テストの内容や、受検後の流れがどんなプロセスで進められるのかをシミュレーションしておくことをおすすめします。必ず質問が出てくるはずですから。そこを想定し、きちんとした答えを持って対応できる準備をしておきましょう。
著者紹介
豊田健一
- Kenichi Toyoda
- ウィズワークス株式会社
- 『月刊総務』 編集長
- 取締役 社内報事業部 事業部長
- ナナ総合コミュニケーション研究所 所長
- 早稲田大学政治経済学部卒業。株式会社リクルート、株式会社魚力で総務課長などを経験後、ウィズワークス株式会社入社。現在、日本で唯一の管理部門向け専門誌『月刊総務』の編集長を務めると同時に、ウィズワークスの社内組織、ナナ総合コミュニケーション研究所所長として企業のインナーコミュニケーションを研究。一般社団法人ファシリティ・オフィスサービス・コンソーシアムの理事や、総務育成大学校の主席講師も務める。一方、10余年におよぶ社内報編集経験から、多業種の社内報創刊・リニューアルをコンサルティング。ウィズワークス社内報事業部長を兼任。
有識者の声 一覧
特集
「働き方」改革
「働き方」改革
労働安全衛生法改正、その後~企業がストレスチェックと向き合う方法~