有識者の声
有識者の声

第1回 正しい理解で効果的な実践を
「ストレスチェック」
おさえておきたい制度のポイント

 12月からの施行に備えて、各企業では色々準備を検討されているところだと思います。わたしが運営する「フェミナス産業医・労働衛生コンサルタント事務所」でも産業医が実施者として機能するストレスチェック実施体制を整えているところです。
 先日は、厚生労働省主催の産業医向け「ストレスチェック制度の研修会」に参加して参りました。研修会での内容も踏まえながら、精神科産業医の視点で、この制度のポイントをお伝えしていきます。

◎ストレスチェック制度の趣旨・目的は?

 まだ若干、誤解されている方がいらっしゃるので、まずはこの制度の目的を確認しましょう。
 この制度は精神疾患やメンタルヘルス不調者を早期に発見するため(二次予防)ではありません。つまりうつ病のスクリーニング検査ではないことを理解してください。この制度の目的は 「労働者のメンタルヘルス不調の未然防止(一次予防)」です。
 労働者のストレスの程度を把握し、労働者自身のストレスへの気づきを促すとともに、職場改善につなげ、働きやすい職場づくりを進めることによって、労働者がメンタルヘルス不調になることを未然に防止することを目的としています。

◎ストレスチェック制度のキーワード「実施者」と「実施事務従事者」

この制度は検査を単に実施すれば いいわけではなく、産業医の役割が強化されているのをご存じですか?産業医がストレスチェックの実施者及び面接指導を担当する医師となるよう、今回の法改正に伴い、労働安全衛生規則や通達では産業医の役割に下記事項が加えられています。

●安全衛生規則

 「法66条の10第1項に規定する心理的な負担の程度を把握するための検査の実施並びに同条第3項に規定する面接指導の実施及びその結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関すること」

●通達

「衛生委員会等に出席して、医学的見地から意見を述べるなど、何らかの形でストレスチェック及び面接指導の実施等に関与すべき」
「事業場の状況を日頃から把握している当該事業場の産業医がストレスチェック及び面接指導等の実施に直接従事することが望ましい」

法律上は、ストレスチェックの実施者になることが認められているのは

  • ・医師
  • ・保健師
  • ・一定の研修を修了した看護師or精神保健福祉士

ですが、実際に実施者として最も望ましいのは、医師であり、その中でも日頃から事業場に関わっている「産業医」がなることを期待されています。
 皆さんの会社の産業医を今一度確認しましょう。名義貸し状態の産業医やメンタル相談に消極的な産業医では、この役割を担うことが難しい場合もあります。

◎実施者の定義や具体的な役割とは?

実施者(≒産業医)がストレスチェックの実施に直接従事し、その実務を全て行うことを期待されているのではありません。実施者の役割として規定されているのは下記です。

  • ①調査票の選定(委託先業者の選定など)について医学的見地から意見を述べること
  • ②ストレスの程度の評価方法及び高ストレス者の選定基準の決定について、医学的見地から意見を述べること
  • ③結果を評価し、高ストレス者かどうか(面接指導を受ける必要があるか否か)確認すること

つまり、調査票の回収、集計や入力等に至る事務作業は「実施者」に求められているわけではありません。上記の主に3つの役割を果たせば「実施者」とみなすことができます。  また、外部機関にストレスチェックを実施者含めて委託する場合には、自社の産業医には代表実施者や共同実施者になってもらうと良いでしょう。共同実施者になってもらうためには、委託先機関の選定に意見を求めたり、ストレスチェック実施の際に、衛生委員会等を利用して産業医に関わってもらいましょう。

◎実施事務従事者とは?

それでは誰が回収、入力、集計等の事務を行って良いのでしょうか?
その役割を担うのが「実施事務従事者」です。

 実施事務従事者・・・実施者の指示により、ストレスチェックの実施の事務(個人の調査票のデータ入力、結果の出力又は結果の保存)に携わる者。個人情報を扱うため守秘義務が発生します。

実施事務従事者になることができるのは、人事権を持たない人事部の職員、産業保健スタッフ、その他の部署の職員等とされています。事業者(社長)や役員、人事部長などは実施事務に従事できません。現実的には、普段産業医の窓口を担当している人事労務担当者(人事権を持っていないことが条件)が適切ではないでしょうか。

ストレスチェックを自社で行う場合でも外部機関を利用する場合でも、まずは実施者(もしくは共同実施者)及び実施事務従事者になりうる人材を確保しましょう。外部に委託する場合には、委託先の実施者や実施事務従事者についても確認しましょう。

職務と情報の取扱いに関する表

  従業員本人 管理監督者 実施者
(面接指導に関与しない場合)
面接指導医師(検査実施に関与しない場合) 実施事務従事者 人事労務部門
ストレスチェック受検の
有無
結果 同意なし × × ×
同意あり
面接申出あり
面接指導に基づく就業意見 × ×
集団分析の結果
  従業員本人 管理監督者 実施者
(面接指導に関与しない場合)
面接指導医師(検査実施に関与しない場合) 実施事務従事者 人事労務部門
ストレスチェック受検の有無
結果 同意なし × × ×
同意あり
面接申出あり
面接指導に基づく就業意見 × ×
集団分析の結果

○:把握・取得可

△:就業上の措置実施等に必要な範囲・内容に限って把握・取得可

×:把握・取得不可/

※:各事業場で検討

実施体制例)

  • ・実施代表者:○○ ○○(当社産業医)
  • ・実施事務従事者:○○ ○○(人事労務部人事課 安全衛生担当)
  • ・委託先実施者:□□ □□(△△センター 医師)
  •         □□ □□(△△センター 保健師)
  • ・委託先実施事務従事者:□□ □□(△△センター 情報管理部)

次回以降は、衛生委員会での審議内容や調査票の選定、結果の通知等に触れたいと思います。

著者紹介

石井りな

石井りな

  • Rina Ishii
  • 精神科医、産業医、
  • 労働衛生コンサルタント
  • 精神科医、産業医、労働衛生コンサルタント
  • 独立行政法人東京医療センターにて初期臨床研修修了後、同病院精神科で後期研修。その後、医療法人高仁会戸田病院、川口クリニック等、精神科診療に従事。同時にうつ病リワーク施設や企業向けの復職支援機関での復職支援を経験。精神分析・力動的精神療法、認知行動療法などの精神療法も学ぶ。多くの企業での産業医経験を経て、フェミナス産業医事務所設立。 運営法人は(株)プロヘルス


有識者の声 一覧

特集

「働き方」改革

人が活きる、企業が活きる~“人”を起点とした経営のヒント~

「働き方」改革

労働安全衛生法改正、その後~企業がストレスチェックと向き合う方法~

連載 企業のメンタルヘルス対策について

第6回 従業員への意識づけとセルフケア

第5回 ルール作り③

第4回 ルール作り②

第3回 ルール作り①

第2回 全体像を知る

第1回 我が国の産業界が直面する労務リスク

特集

「ストレスチェック義務化の具体的な対応方法」後編

「ストレスチェック義務化の具体的な対応方法」前編

実践!職場のメンタルヘルス対策

企業で働く人の健康は、いったい誰が守るのか?

人が活きる 企業が活きる

株式会社ジェイフィール代表取締役社長 高橋克徳インタビュー

人が活きる 企業が活きる

月刊総務 編集長 豊田健一インタビュー

労働安全衛生法改正

石井りな産業医にきく今だから知りたい労働安全衛生法の改正

連載 正しい理解で効果的な実践を

第3回 「ストレスチェック」外部委託のポイントとは?

第2回 「ストレスチェック」事前準備のポイントとは?

第1回 「ストレスチェック」おさえておきたい制度のポイント

担当者様に朗報!お求めやすい料金プランできました。

資料請求・お見積もり・デモ希望はこちら

資料請求・お見積もり・デモ希望はこちら

資料請求・お見積もり・デモ希望はこちら