有識者の声
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第5回 企業のメンタルヘルス対策について
ルール作り③

<④休職に入るときのルール>

 勤怠が乱れている、職場での言動がおかしい、顧客からのクレームが急増した、など、メンタル不調が疑われる社員に対して、タイミングよく休職命令が出せない企業が多く見受けられる。近頃、労働者からの申し出による休職も少なくないようだが、企業側が、不調者を放置しておくことはさまざまなリスクにつながるので、業務に支障がでるような不調者を発見した時点で、スムーズに休職命令が出せるような規則(規程)を用意するべきである。
 そもそも、「休職とは解雇の猶予である」ということを労使共に再認識するべきである。労務の提供とその対価の支払い、という平等な労働契約を交わしているのが労働者と企業の姿であり、一方(労働者)が体調不良等のために労務の提供が完全にできない場合、活用できるのが休職制度である。従って、休職させるかどうかは、企業に決定権がある。
 休職の条件として、医師による診断書が必要となってくるが、その診断書を提出させるにもルールが必要である。多くの企業でそれが徹底されておらず、現場での困惑が広がる中、不調者の病状はどんどん悪化していく。まずは、あらゆるケースを規則(規程)に盛り込み、診断書取り付け~休職命令まで、遅滞なく行えるような工夫がほしい。
 次に、休職の実務における留意点であるが、休職に入るときに、きちんとした形での面談を行うことが肝要である。メンバーは、人事・労務担当者、不調者本人の他、不調者の配偶者、上司(明らかに上司との人間関係で不調に陥った場合などは、外れてもらう)、そして産業医も出席することが望ましい。産業医から、不調者および配偶者に対して、休職中の過ごし方や、復職判断などについてあらかじめ話しておいてもらう。次に、会社の規則や復職の基準などについては書類に明記し、不調者や配偶者と読み合わせをした上で最後にサインをもらっておく。ここまでしておけば、復職の失敗やトラブルを最小限に抑えることができる。

ルール作り③

<⑤復職するときのルール>

 復職には、本人の体調や復職の意思、主治医の意見、産業医の見解、会社の最終決定などが必要であるが、ひとつひとつの手順が疎かにされているケースが目立つ。まずは、企業側で手順を明確化し、(復職プログラム)モデルケースを作っておく。これがあれば、誰が担当しても、どんな不調者でも、ある程度パッケージ化された復職が可能である。ケースバイケースという名のもとに、まったくルールを策定しないのは、現場の混乱を招く。
 復職の際には、復職判定委員会を開き、合議制で復職を決定するとよい。委員会のメンバーとしては、人事・労務担当者、不調者の上司、産業医・カウンセラーなどの産業保健スタッフが適当である。異動先の候補となる部門のマネジャーなどに参加を求める場合もある。精神疾患の場合、いきなりフルタイムでの復職が難しい場合も少なくない。しかしながら、会社はリハビリ施設ではない。一定の配慮の元、通常の業務がこなせる程度まで回復していないならば、復職を認めるべきではない。また、賃金を支払わなければ労働と認められず、労災の適用下にないので、「ためし出社」「リハビリ勤務」などの呼称で出社させる場合は、時給換算などして賃金を支払うべきである。また、これに関しても会社側の勝手な判断でリハビリさせ、万が一通勤途上などで事故があれば(自殺など)、誰が責任を取るのか、企業は今一度、慎重に考えるべきではないだろうか。

著者紹介

根岸勢津子

根岸勢津子

  • Setsuko Negishi
  • 株式会社プラネット代表取締役
  • 企業防衛の視点に立ったメンタルヘルス対策の専門家。社内規程づくりから、教育研修にわたり幅広い領域のコンサルティングを展開。クライアント企業は、IT業、介護福祉業、物流業、小売業、外食チェーンなど、上場企業70社を含む100社を超える。


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