
有識者の声
第2回 正しい理解で効果的な実践を
「ストレスチェック」事前準備のポイントとは?
今回は衛生委員会で審議する内容や事前の準備について触れていきます。
ストレスチェックを始めるために!
ストレスチェックを始める前に、衛生委員会で審議を行い、ストレスチェック制度の実施方法の規程を作成する必要があります。
◎衛生委員会で審議すべき内容は次の項目です。
労働者50人以上の事業場では、毎月衛生委員会が開催されていると思いますので、その場を活用してストレスチェックについて以下の項目を話し合い明示していきましょう。
- ① ストレスチェック制度の実施の目的に係る周知方法
- ② ストレスチェック制度の実施体制
- ③ ストレスチェック制度の実施方法
- ④ ストレスチェック結果に基づく集団ごとの集計・分析の方法
- ⑤ ストレスチェックの受検の有無の情報の取扱い
- ⑥ ストレスチェック結果の記録の保存方法
- ⑦ ストレスチェック、面接指導及び集団ごとの集計・分析の結果の利用日的及び利用方法
- ⑧ ストレスチェック、面接指導及び集団ごとの集計・分析に関する情報の開示、訂正、追加又は削除の方法
- ⑨ ストレスチェック、面接指導及び集団ごとの集計・分析に関する情報の取扱いに関する苦情の処理方法
- ⑩ 労働者がストレスチェックを受けないことを選択できること
- ⑪ 労働者に対する不利益な取扱いの防止
この中でも、特に注意が必要な項目について追記します。
・受検の有無の情報の取扱い
事業者は、既存の定期健康診断結果報告書と同様に、毎年1回、ストレスチェックの実施状況と「心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書」(資料1参照)により、労働基準監督署に報告しなければなりません。この報告書には受検者数を明記する欄がありますので、事業者は受検者数と未受検者数を把握する必要があります。どのように各労働者の受検の有無を把握するのか?また、未受検者へのどのように受検勧奨を行うのかがポイントです。
労働者にはストレスチェックの受検義務はありませんので、本人の意思で「受けない」選択をすることが可能です。しかしながら、制度を効果的に活用するには、全ての労働者が受検することが望ましいため、「全労働者の受検を望む」旨を事業場内で周知してください。その際、ストレスチェック制度に係る労働者に対する不利益な取扱いとして禁止されている行為についても周知し、安心して受検できる環境を整えましょう。受検勧奨できる体制を整えましょう。
外部機関へ委託する場合には、事業者が外部機関から未受検者リストを入手し、人事担当者が各労働者へ連絡するのか?もしくは、委託するストレスチェックサービスの中に受検勧奨機能が含まれているのか?などを確認すると良いでしょう。
・調査票の選定について
調査票の選定にあたっては、実施者もしくは共同実施者となる産業医に意見を聴いてください。推奨されているのは「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」です。これを簡略化したもの(23項目)もあります。使用する調査票については法令上の規定はありません。独自の調査票を選定しても問題ありませんが、次の3領域が含まれていることと科学的根拠が示されていることが必須です。
- ① 仕事のストレス要因
- 職場における労働者の心理的な負担の原因に関する項目
- ② 心身のストレス反応
- 心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目
- ③ 周囲のサポート
- 職場における他の労働者による当該労働者への支援に関する項目
各外部機関が開発した、過去の経験則や実績からの「オリジナル質問票」には気を付けてください。「性格検査や適性検査を含む心理検査の項目」「希死念慮や自傷行為に関する項目」「うつ病等精神疾患のスクリーニング項目」は不適当とされています。特に100問近いような項目が多数のものは不適切な質問が含まれていることも多いため注意が必要です。職業性ストレス簡易調査票以外を選択する場合には、必要以上の健康情報を収集しないよう、設問内容の適性、及び科学的な裏付けについて、産業医にもアドバイスを求めましょう。
・結果の通知方法
ICTを活用してストレスチェックを行う場合には、その場で結果をみられることがほとんどです。紙媒体の場合、後日個人宛に結果を郵送することになるでしょう。結果の通知にあたっては、単に結果の説明だけでなく、次の項目を掲載することが推奨されています。
- ① セルフケアに関する助言・指導
- ② 高ストレス者には事業者への面接指導の申出窓口及び申出方法
- (「面接指導」とは法律に基づいた医師による面接指導のこと)
- ③ 面接指導以外の相談ができる窓口に関する情報
- (医師による面接指導ではなく、臨床心理士やカウンセラー等によるカウンセリング窓口など)
面接指導に対応する医師の確保の他、労働者が人事を通さずに直接相談ができるカウンセリング窓口をご準備頂くと良いでしょう。
・同意取得のタイミング
さらに気を付けなければならないのは、事業者へ結果を提供することに関する「同意取得のタイミング」です。従前のメンタルチェックやストレスチェックの多くは「質問に答える前」、「質問に答えた最後(結果表示前)」に同意を取得していました。しかし、今回の制度では、結果を通知した後に、同意の有無を選択できるようにしなくてはなりません。ICTであれば結果表示画面で、紙であれば結果を返送する際に同意を確認する必要があります。外部委託する際は、この点も確認ください。
◎ストレスチェック制度の実施方法の規程作成
始める前の必要な準備のうち、ここでは規定づくりについてお話しします。
事業者はストレスチェック制度の実施主体者です。制度の導入方針を決定及び表明し、衛生委員会で調査審議した項目を盛り込んだ社内規定を作成し周知する必要があります。尚、厚労省より規定例が公表されていますので、参考にしながら、顧問社労士等へ相談し、実態に即した規定を作成してください。
次回はストレスチェックの事後措置を中心に取り上げたいと思います。
著者紹介
石井りな
- Rina Ishii
- 精神科医、産業医、
- 労働衛生コンサルタント
- 精神科医、産業医、労働衛生コンサルタント
- 独立行政法人東京医療センターにて初期臨床研修修了後、同病院精神科で後期研修。その後、医療法人高仁会戸田病院、川口クリニック等、精神科診療に従事。同時にうつ病リワーク施設や企業向けの復職支援機関での復職支援を経験。精神分析・力動的精神療法、認知行動療法などの精神療法も学ぶ。多くの企業での産業医経験を経て、フェミナス産業医事務所設立。 運営法人は(株)プロヘルス
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